2018.03.15 Thursday
本よりネット記事より読者に寄りそい体系的に
高校の理科の教科書というと、本文のなかに式が入っていて、一般向けの科学の読みものやインターネット記事よりもむずかしそうな印象がもたれがちです。
しかし、読者に寄りそいながら体系的に述べられているという点では、いまの高校の教科書は、ほかの媒体よりも優れているのかもしれません。
たとえば、『総合物理2 波・電気と磁気・原子』(数研出版)という教科書では、光、X線、電子などがもつ、粒子と波動の二重性という性質を、つぎのような流れで説いていきます。
「これまで学んできたように、光を含め電磁波は、電場と磁場が互いに垂直振動をくり返す波動である。しかし、後で学ぶように、光を波動と考えると理解できない現象が出てきた。そこで、アインシュタイン(ドイツ → アメリカ)は、光は光子(光量子)と名づけた粒子の集まりの流れであり、……」
波動と考えられてきた光が、波動では理解できなくなってきたとするわけです。しかも「これまで学んできたように」や「後で学ぶように」といった表現は、高校生たちが学んでいるということを明確に意識した記述といえましょう。
そして、アインシュタインの「光量子説」を紹介したあと、つぎのようにひとつの結論を述べます。
「このように、光は波動性をもつと同時に、粒子性もあわせもつ」
そして、その後、「後で学ぶように」としていた「光を波動と考えると理解できない現象」として「光電効果」を記述していくのです。
さらに、X線についても、波動性と粒子性があることを示したうえで、「粒子の波動性」という項目に移ります。
「これまで光やX線などの電磁波は波動としての性質だけでなく、粒子としての性質もあわせもつことを学んだ。このように一見すると相反する2つの性質をもつ現象は、粒子と波動の二重性といわれる」
さらに、粒子と波動の二重性が、電子にも当てはめるということを示していきます。
「ド・ブロイ(フランス)は、その逆に、ふつうは粒子と考えられている電子などにも波動性があるのではないかと考えた」
そして、ド・ブロイが唱えた「ドブロイ波長」を紹介し、電子における粒子と波動の二重性も示すのです。
さらに、この章の最後では、量子力学の本質にすこしだけ触れます。
「電子など微視的な粒子は、これまで学んだ力学でなく量子力学とよばれ自然法則に支配され、位置と運動量など関連した2つの量を同時に正確に求めることはできない。これを不確定性原理といい、1927年にハイゼンベルク(ドイツ)が初めて導入した」
さらに、「参考」という枠のなかでは、「電子線の干渉実験」を扱って、電子が波としての性質をもつことを示したり、「電子顕微鏡」を扱って、光のかわりに電子線を物体に当てて高い分解能で観察できるといった能力を示したりします。
科学の読みものでは著者の視点が入ることがあるし、インターネットの記事では断片的な情報を拾うのみということもあります。教科書は、過不足なく客観的に、しかし使い手である読者の学びの程度を考慮しつつ、自然科学の展開のしかたも効果や現象の内容も伝えてくれます。
参考資料
数研出版『総合物理2 波・電気と磁気・原子』
https://www.amazon.co.jp/dp/4410812122