科学技術のアネクドート

からだのなかでも滝の流れのように情報伝達

写真作者:Gemma Stiles

情報伝達というと、新聞社と読者とか、広告主と消費者とか、とかく意思をもつ人と人とのあいだでおこなわれるような印象があるでしょうか。

しかし、意思をおそらくもっていない物質どうしのあいだでも、情報伝達がおこなわれます。生きもののからだのなかでは、そこいらじゅうで「情報伝達」がおこなわれています。

生きものの細胞の膜の表面には受容体というたんぱく質の一種があります。この受容体に、細胞の外にある化学物質やホルモンなどの分子がやってきて結びつくと、情報伝達のスイッチのようなしくみが入ります。

すると、スイッチが入ったのを受けて、その刺激により二次伝達物質とよばれる物質がつくられます。受容体と結びつく物質が「一次」だとしたら、そのつぎに動きだす物質は「二次」というわけです。

二次伝達物質のほかに、受容体のスイッチが入るとまたほかの物質が活性化していきます。このように、受容体と分子が結ばれたことを起点に、さまざまな物質がつぎつぎと刺激を受けて活発になっていく連鎖反応がからだでくりひろげられているわけです。こうした連鎖反応を、「階段状の滝のようだ」とたとえることもあります。

たとえば、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β:Transforming growth factor-β)というたんぱく質が細胞膜をいちど貫通し、受容体と結びつきます。するとこの受容体は細胞内でべつの受容体にリン酸基と結びつくようはたらきかけます。これは「リン酸化」とよばれるもの。すると、そのリン酸化を受けた受容体が、さらにSmadとよばれるたんぱく質をリン酸化します。

このSmadが仲間のSmadと結びつくと、核のなかへと移っていき、デオキシリボ核酸(DNA:DeoxyriboNucleic Acid)のすぐ側にいる「転写因子」というたんぱく質と結びつきます。転写因子は、特定の遺伝子を発現させるおおもととなるものですから、Smadと転写因子が結びつくことによって遺伝子が発現していくことになります。

人から人への情報伝達というのもなかなか複雑なものではありますが、その人のからだのなかでくりひろげられている情報伝達も、相当に複雑なものといえましょう。そして、複雑なしくみに対して、人は「あたかも意思をもっているかのよう」と感じます。

参考資料
生物学用語辞典「シグナル伝達」
https://www.weblio.jp/content/シグナル伝達
薬学用語解説「シグナル伝達」
http://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?シグナル伝達
生物化学2 2014年「細胞内情報伝達」
http://www2.huhs.ac.jp/~h990002t/resources/downloard/14/14biochem2/03signaling14_2.pdf
栄養・生化学辞典の解説「SMAD」
https://kotobank.jp/word/SMAD-762224
ブリタニカ国際大百科事典「リン酸化反応」
https://kotobank.jp/word/リン酸化反応-150344
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