科学技術のアネクドート

「レーザー」が揺れている
よく使われる科学・技術のことばには、正しそうに聞こえて、厳密には正しいといえるかは疑わしいようなものもあります。

「レーザー」もそのひとつではないでしょうか。

このことばに対して、多くの人が「光」を想起するようです。インターネットの画像検索で「レーザー」と入れると、色とりどりの光線の画像がいくつも出てきます。


グーグルでの「レーザー」の画像検索結果

しかし、レーザーは光というよりも、本来的は装置のことを指します。

国語辞典では「レーザー」は、はじめに「振動数が光および光に近い周波数にあるメーザー」と出てきます。では「メーザー」とはなにか。国語辞典では「誘導放出を利用してマイクロ波を増幅する装置」と出てきます。

つまり、「レーザー」は「メーザー」であり、「メーザー」は「装置」なのだから、「レーザー」は「装置」ということになります。

では、「レーザー」ということばから想起される「光」をどう表現すればよいのか。ふさわしいのは「レーザー光」あるいは「レーザー光線」あたりではないでしょうか。

大リーグのイチロー選手が外野フライをとってから、走者の走塁を封じるため3塁や本塁に一直線に球を投げることがあります。この一直線の球の軌跡は「レーザービーム」とよばれます。「ビーム」は「光線」ですから、「イチローから放たれたレーザービーム」という表現は、使いかたとしてはふさわしいといえそうです。なお、このときイチロー選手は「レーザー」の位置づけになります。

しかしながら「レーザー」を「装置、またはその光」という意味で捉えることを許容する向きもあります。べつの国語辞典には、「メーザーと同じ原理を用い、誘導放出によって光を増幅・発振する装置。また、その増幅された光」とあります。

ウィキペディアでは、「自由電子レーザー」という項目には「自由電子のビームと電磁場との共鳴的な相互作用によってコヒーレント光を発生させる方式のレーザーである」とあります。「光を発生させる」とありますから、これは装置を指すものと考えられます。

しかし、おなじウィキペディアの「X線自由電子レーザー」という項目には「自由電子レーザーのうち、X線領域で発振を行うものから得られる光である」とあります。こちらは明らかに光を指しています。

すくなくともレーザーの装置と光の両方を表現するような記事や文書では、「レーザー」と「レーザー光」を分けて使うほうが、読む人の理解は進みそうです。

このような記事を出すこのブログで、「レーザー」と「レーザー光」をきちんと分けていたかどうかは……。

参考資料
スーパー大辞林「レーザー」
スーパー大辞林「メーザー」
デジタル大辞泉「レーザー」
https://dictionary.goo.ne.jp/jn/234474/meaning/m0u/レーザー/
ウィキペディア「自由電子レーザー」
https://ja.wikipedia.org/wiki/自由電子レーザー
ウィキペディア「X線自由電子レーザー」
https://ja.wikipedia.org/wiki/自由電子レーザー
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