科学技術のアネクドート

タカヂアスターゼ発見の前に“ニッポン・ウイスキー”の夢絶たれ
消化不良や食欲不振などに対する薬に、「タカヂアスターゼ」があります。一般名は消化酵素剤。糖質やたんぱく質を消化する効き目をもつ薬です。

この薬を発明したのは、応用化学者だった高峰譲吉(1854-1922)。ほかに、強心剤や血圧上昇剤としても使われるアドレナリンを発見した人物でもあります。


高峰譲吉

教科書に出てくる高峰の説明はこのくらいかもしれません。しかし、タカヂアスターゼを発明するまでの半生は、さほど知られていないものの壮絶なものだったようです。

高峰は1890(明治23)年、独自に開発した「高峰式」とよぶウイスキー醸造法をひっさげて、前の渡米中に出会い結婚した妻キャロラインや仲間と米国へ行きます。そしてシカゴに着くと、小麦麩(こむぎふすま)から麹をつくり、それをトウモロコシに付けて糖をつくり、発酵、また蒸留してウイスキーを試作しました。麹を使ったウイスキーづくりは、高峰にとっても初めてのことでした。

この成功の話に衝撃を受けたのが、米国の製麦業者たちでした。従来、ウイスキーづくりでは、トウモロコシなどの穀物に麦芽を加えて、糖化、発酵、蒸留していました。その麦芽が、高峰がもってきた麹に代わられるとしたら、製麦業がなりたたなくなると、米国の製麦業者たちは危機感をつのらせたのでした。

そして、製麦工場では、新たな醸造法の排斥運動が起きました。さらに、高峰の協力者だったウイスキー・トラスト社のグリーン・ハットが用意した高峰のウイスキー工場が火に燃やされ、工場は灰と化したといいます。

高峰とハットはこれにめげず、半年後に工場が再建され、ウイスキー・トラスト社のウイスキーのかなりの率を、高峰の醸造法でつくる計画を立てたといいます。

ところが、社内の製麦業者がやはり反対運動をくりひろげ、ついに当時の米国政府が会社に解散命令を下し、3年間は政府が管理することになったのでした。

高峰にとっては大きな挫折だったでしょうが、そこから立ちあがります。ウイスキーづくりでは幻の材料となってしまった麹を水に浸し、そこにアルコールを加えて、出てきた沈殿物を調べてみると、それまでにないほどの強力な酵素によるデンプンの分解作用が起きていることを発見したのです。

おそらく、ウイスキーの醸造の仕事を進めながら、高峰は、酵素はデンプンを分解することを知っており、「酵素を強力にはたらかせる麹を見つけることができれば」と考えていた、つまりタカヂアスターゼを発見するための準備はしていたのでしょう。

米国で憂き目に遭い、米国で100年以上も使われつづけることになる薬を発見した高峰は、1922(大正11)年、米国で死を迎えました。

参考資料
坂口謹一郎『日本の酒』
https://www.iwanami.co.jp/book/b247068.html
第一三共ヘルスケア「新タカヂア錠」
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/products/details/takadia/
高峰譲吉博士研究会「タカヂアスターゼ」
http://www.npo-takamine.org/works/02.html
ウィキペディア「高峰譲吉」
https://ja.wikipedia.org/wiki/高峰譲吉
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