科学技術のアネクドート

間接光を入れて品質管理を安定的に


写真作者:Michael Coghlan

工場を象徴するかたちといえば、のこぎりの刃のようなかたちをした屋根ではないでしょうか。工場のピクトグラムでも、たいてい屋根のかたちはのこぎりの刃のかたちになっています。

工場でつとめている人や、工場に入ったことにない人は、「なぜ工場の屋根は、こうものこぎりの刃のかたちになっているんだろう」と思うかもしれません。ものごとのかたちの多くには、やはり理由があるもの。工場の屋根のかたちも多分に漏れません。

工場の屋根がのこぎりの刃のかたちをしている理由は「採光をよくするため」とされています。垂直の面をガラス張りにし、そこから光を採り入れるわけです。

のこぎりの刃のかたちをした屋根は、19世紀の英国で考案されたといいます。技師で建築家のウイリアム・フェアバーン(1789-1874)が、工場内に自然光を入れることは、ものをつくる工程に欠かせないことと考え、導入したとされます。

日本では1883(明治16)年、いまの東洋紡の前身にあたる大阪紡績の三軒屋工場で、初めてのこぎりの刃のかたちをした屋根の工場が建てられたとされます。これは、実業家の山辺丈夫(1851-1920)が1877年から3年ほど英国に留学したときに得た知識を日本に帰国後、実践したものといわれます。

三軒屋工場は、いまの大阪市大正区にありました。大阪市のサイトには、大阪紡績の当時の工場の絵があり、屋根の短辺がガラス張りになっているようすがうかがえます。

19世紀後半から20世紀前半にかけて、日本では絹織りが大きな産業のひとつでした。直射日光が入ると、時間帯や天候によって、織りものの色が変わって見えてしまい、品質を確かめるのに支障をきたすことから、ガラス張りにする面は北側に向くようにするという工夫もありました。

いまでは、照明設備も発達し、のこぎりの刃のかたちをした工場の屋根は、むかしほど見かけなくなりました。希少価値は高まってきています。

参考資料
wikipedia “Saw-tooth roof”
https://en.wikipedia.org/wiki/Saw-tooth_roof
ウィキペディア「のこぎり屋根工場」
https://ja.wikipedia.org/wiki/のこぎり屋根工場
デジタル版 日本人名大辞典+Plus「山辺丈夫」
https://kotobank.jp/word/山辺丈夫-144312
大阪市「公文書・刊行物からみた大阪市の産業」
http://www.city.osaka.lg.jp/somu/page/0000244917.html

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