科学技術のアネクドート

T細胞とがん細胞を擬人化して絵解き

きのう(2018年)1月17日(水)のこのブログの記事「チェックポイントの作用を阻害し、がんを治療」は、がんの新しい治療薬として2014年から使われだした「免疫チェックポイント阻害剤」のしくみを紹介するものでした。

「免疫チェックポイント阻害剤」のしくみは、さまざまな情報源が絵解きでも説明しています。とくに日本でつくられた絵解きは、免疫細胞であるT細胞とがん細胞を擬人化して表現する工夫が見られます。

日本の擬人化した免疫チェックポイント阻害剤の絵解きの多くは、「がん細胞がT細胞に悪だくみをしている状態」と「阻害剤が使われてT細胞ががんに反撃をしかける状態」、つまり「使用前」と「使用後」が描かれています。

ただし、「免疫チェックポイント阻害剤がどうはたらいているか」を表す部分については、創作性のちがいが若干ながら見られます。

免疫チェックポイント阻害剤が、T細胞にあるPD-1(Programmed cell Death1)という部分と強く結びついて、がん細胞のPD-L1(Programmed Death-Ligand 1)という部分がPD-1と結びつくのを邪魔するわけですが、PD-1とPD-L1を擬人のどの部分として描き、またどこに阻害剤が割って入るかあたりが、絵解きの要点となっています。

まず、少数派ですが、PD-1をT細胞についた“頭頂部の突起”のように描き、この突起にはまるものを、がん細胞のPD-L1とするか、阻害剤とするかによって、「使用前」「使用後」を表そうとするものがあります。毎日新聞医療プレミアの「ニボルマブの作用の仕組み」や、湘南メディカルクリニックの「T細胞によるがん細胞への攻撃」などは、この描きかた。

いっぽう、T細胞のPD-1や、がん細胞のPD-L1を“手”のように描き、握手しているときはT細胞が弱った表情となり、阻害剤によって握手が解かれたときはT細胞が元気をとり戻しているという描きかたも見られます。こちらのほうが“頭頂部の突起”より多数派でしょうか。

さらに、この“手”のたとえによる描きかたでは、「T細胞が阻害剤を“手”で持っている描きかた」と、「T細胞とがん細胞のあいだに阻害剤が立ちはだかっている描きかた」とが見られます。前者はたとえばAERA dot.の「免疫チェックポイント阻害剤のしくみ」、また後者は、じんラボの「免疫チェックポイント阻害薬のしくみ」などに見られます。

では、免疫チェックポイント阻害剤を開発し、販売する“本家本元”はどう描いているのでしょう。「オプジーボ」(一般名「ニボルマブ」)を製造・販売している小野薬品工業の「オノ オンコロジー」というサイトでは、T細胞を“正義の味方”のような人物に、がん細胞を“鬼”にたとえていますが、詳しいしくみについてはべつの図解を使って紹介するという二段構え。

「抗体(免疫チェックポイント阻害薬:PD-L1とPD-1の結合を阻害する抗体など)を用いて、がんが免疫細胞に対してかけているブレーキを解除し、はたらきが弱くなったT細胞が再び活性化してがん細胞を攻撃」という絵解きでは、まず上のほうで“正義の味方”が“鬼”にパンチを食らわせている絵を描いています。そして、下のべつの図解では、PD-1とPD-L1のあいだに、先端が矢印型に、後端がY字型になった棒状のものが存在し、これが結合しようとするPD-L1の邪魔をしているといった描きかたをしています。後端のY字型は、おそらく薬の本体にあたる「抗PD-1抗体」のかたちが全体として「Y」に似ていることからのものでしょう。

英語で「免疫チェックポイント阻害剤」を意味する“immune checkpoint inhibitors”を画像検索しても、T細胞やがん細胞を擬人化している絵は見られません。


“immune checkpoint inhibitors”の画像検索結果

日本の情報源の、どうにか擬人化をして表現しようとする姿勢が見てとれます。こうした努力は、がん治療の方法についての一般の人びとの理解を進めることにつながります。

参考資料
毎日新聞医療プレミア「革命的ながん新薬、免疫チェックポイント阻害剤とは」
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20150917/med/00m/010/003000c
湘南メディカルクリニック「免疫チェックポイント阻害剤 ニボルマブ(抗PD-1抗体)」
https://www.immunotherapy.jp/opujibo.html
AERA dot.「新抗がん剤『オプジーボ』が胃がんでも国内承認 がんの縮小効果を確認」 
https://dot.asahi.com/print_image/index.html?photo=2017091300031_1
じんラボ基礎知識「腎がんの治療 最適な治療を選択するために」
http://www.jinlab.jp/basic/basic_13cancer5treat.html
オノ オンコロジー「免疫チェックポイント阻害療法」
https://www.ono-oncology.jp/contents/patient/immuno-oncology/step3_05.html

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