科学技術のアネクドート

金融リテラシーは必要だけれど、学校教育であまり習わない



ある分野についての知識や、その知識を活用する能力のことを、「リテラシー」といいます。「科学リテラシー」とか「情報リテラシー」とか、その分野のことばを冠して表現することもあります。

「金融リテラシー」も言われているようです。グーグル検索では62万5000件。それほどまで言われているということは金融リテラシーもリテラシーとして大切なのでしょう。金融とはお金の貸し借りのことであり、「金融リテラシー」は、お金を貸し借りすることについての知識や、その知識を活用すること、といった意味になりそうです。

金融庁は「最低限身に付けるべき金融リテラシー(知識・判断力)」を公表しています。「1 家計管理」「2 生活設計」「3 金融知識及び金融経済事情の理解と適切な金融商品の利用選択」「4 外部の知見の適切な活用」という4分野を設け、「1」「2」「4」については1項目だけを示し、「3」については12項目を示しています。

たとえば「3」の項目には、「契約にかかる基本的な姿勢の習慣化」といった素養もあれば、「(金利、インフレ、デフレ、為替、リスク・リターンなどの)金融経済教育において基礎となる重要な事項や金融経済情勢に応じた金融商品の利用選択についての理解」といった知識、また「(死亡・疾病・火災などの)自分にとって保険でカバーすべき事象が何かの理解」といった自己把握力などが挙げられています。

金融庁は内閣府の外局。つまり国の行政機関のひとつです。しかし、金融庁が「最低限身に付けるべき金融リテラシー」を掲げておきながら、その最低限の金融リテラシーを学校教育で国民が身につける機会は多くありません。

文部科学省は、小学校や中学校での義務教育のなかでも「消費者教育・金融経済教育」にとりくんでいることを示してはいます。たとえば、小学校の家庭科では「身近な物の選び方、買い方を考え、適切に購入できるようにすること」を、また中学校の社会科(公民)で「契約の重要性やそれを守ることの意義、個人の責任に気付かせること」を、学習指導要領にもとづいて実施しているとしています。

しかし、実際のところどうでしょうか。

2014年4月、金融経済教育を推進する研究会が、「中学校・高等学校における金融経済教育の実態調査」という報告書を公表しました。中学校の社会科と技術家庭の教諭、高校の公民科、家庭科、商業科の教諭あわせて3万2220人に質問したところ、4462通の回答があったそうです。そして、教科書の金融経済教育に関する記述について「不十分」「やや不十分」という答は、37.8パーセントだったそうです。不十分な分野としては、「クレジット、ローン、証券など」「年金制度」「株式市場の役割」「保険の動き」を挙げた人が3割以上だったとも。

「お金のことに疎い人」は大人にもいるものです。義務教育や高校の教育を受けた大人たちでも「ローンってどうなってるんだっけ」「国民年金ってなに」「株ってどうなってんの」「国保税って税金なの」などと、疑問を抱いている人はすくなからずいるはず。

そういう人たちのことを指して「お金を使うことに対するセンスがない」という人もいるでしょう。「あの人は買いもののセンスがないな」と。

 

しかし、センスとはべつに「お金を使うことに対する知識がない」という人も「お金のことに疎い人」に含まれているのではないでしょうか。「科学に疎い」人のなかには、「科学のセンスがない」人だけでなく「科学の知識がない」人も多くいるのとおなじように。

株式などは興味がなければ手を出さなければよいだけですが、税金や家計のように自分の生活にかならずかかわるようなお金のこともあります。しかし、その多くは義務教育や高校の教育だけで身につけられるようにはなっていません。

学校教育に金融やお金の教育をあまり入れないのは、それを入れてしまうと国民のお金に対する知識が増えてしまい、国が金融行政を制御しづらくなるからだという説もあるようです。真偽は不明ながら。

小中高校の理科教育の実践によって、科学リテラシーを身につけた人たちが増え、税金がもととなり使われる研究費の使われかたに対して社会全体の監視力が高まったという話は聞くものです。監視のしすぎでお金の使いかたががんじがらめになるのはよくないとしても、ある程度「国民が見ている」という状況があることは大切でしょう。

科学リテラシーでそうした実例がもしあるのであれば、人びとの金融リテラシーが学校教育で高まり、お金の使いかたや使われかたにより敏感な社会がつくられるとしても不合理ではありません。

参考資料
日本証券業協会 金融・証券用語集「金融リテラシー」
http://www.jsda.or.jp/manabu/word/word73.html
金融庁「最低限身につけるべき金融リテラシー」
http://www.jsda.or.jp/manabu/word/images/common/415.pdf
金融経済教育を推進する研究会 2014年4月発表「中学校・高等学校における金融経済教育の実態調査報告書」
http://www.jsda.or.jp/manabu/kenkyukai/content/jittai_rep.pdf
文部科学省 2014年11月11日発表「文部科学省における金融経済教育の取組について」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/saimu/kondankai/dai04/siryou7.pdf

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