科学技術のアネクドート

マラソンの高低差はスタート・ゴール間の1000分の1以内


過去の東京マラソン
写真作者:Kevin Krejci

第11回の東京マラソンが(2017年)2月26日(日)都内で開かれました。ケニアのウィルソン・キプサング選手が、2時間3分58秒で優勝しました。日本国内のマラソンでは初の2時間3分台となりました。

東京マラソンは、高記録が出やすい大会とされています。そのひとつの要因のひとつとして、スタートとゴールの標高差がかなりあることがあげられそうです。

スタートの東京都庁前は標高およそ40メートル。今回のゴールとなった東京駅前の標高はおよそ3メートル。スタートよりゴールのほうが37メートルほど低い地点にあります。

地球には重力があるので、下り坂を走るときの速度は上り坂を走るときの速度よりもあきらかに高くなります。37メートルといえば商業ビル10階建てほど。これを登るよりも降るほうが速度がつきます。

極端に考えると、下りっぱなしの道でマラソン大会を新たに開けば、世界新記録がかんたんに出てしまうかもしれません。しかし、そこは規則として考えられているようです。

たとえば、日本陸上競技連盟は、「長距離競走路ならびに競歩路公認に関する細則」を定めており、そのなかの「コースの設置」という項目で、つぎのようにしています。

「第4条 2.スタートとフィニッシュ地点の2点間の標高差(エレベーション)は 1,000分の1以内とする。即ち1kmあたり1mを超えてはならない」

フルマラソンの距離は4万2195メートルなので、1000分の1となると42メートル19センチ5ミリとなります。東京マラソンのコースの高低差は、これを下まわっているので、細則に反していません。

東京マラソンのコースでは、スタートから6キロメートルぐらいまでに一気に坂を下っていきます。規則の範囲内で、さらに高記録をねらえるようなコース設定をするとすれば、この一気に坂を下る場所を、走者の足が運ばなくなる35キロメートル以降に置くとよさそうです。しかし、そうしたコースには、「意図的すぎるだろう」と物議が起きるかもしれません。

かつては、1992年のバルセロナ五輪のマラソンでは、ゴール手間の「モンジュイックの丘」という上り坂で、森下広一選手が韓国のファン・ヨンジョ選手と激しい競りあいがありました。また、2003年の東京国際女子マラソンでは、旧国立競技場までの上り坂で高橋尚子選手が失速し、優勝を逃すというできごともありました。

世界の頂点を争う走者にとっても、坂があることは勝負の要点となるようです。

参考資料
スポニチアネックス 2017年2月26日付「キプサング、国内初の2時間3分台で優勝! 井上が日本勢トップ8位」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170226-00000091-spnannex-spo
日本陸上競技連盟「長距離競走路ならびに競歩路公認に関する細則」
http://www.jaaf.or.jp/athlete/rule/pdf/10-6.pdf
| - | 22:11 | comments(0) | trackbacks(0)
見えている文化は「氷山の一角」にすぎない

写真作者:Natalie Lucier

「氷山の一角」というたとえがあります。氷山が海面から出ている部分は、全体のわずかにすぎないことから、「大きなものごとのほんの一部」といった意味を表します。

人にとっての「文化」の全体も、氷山にたとえられることがあります。これを「文化的氷山」(Culturaral Iceberg)といいます。

米国の文化人類学者だったエドワード・ホール(1914-2009)は、文化と氷山はにていると唱えました。文化はふたつに分けることができ、ひとつは表面上にあって見ることのできるもの、もうひとつは表面下に隠れているものとしたのです。

表面上にある文化の要素とは、たとえば「食べもの」「服」「言語」「宗教」「態度」「伝統」「祭」「音楽」「踊り」「文学」といったもの。しかし、表面上にあるこれらの要素は、文化の全体のほんの1割を占めるにすぎないと、ホールは考えました。

では、表面化に隠されている9割の要素はどんなものかというと、「価値」「信念」「願望」「自信」「優先事項」「憶測」「規範」「規則」「思考パターン」などといったものだとされています。一見、これらの要素は「文化と関係があるのだろうか」と思えるようなものばかりですが、「人は価値をもつから文化がある」「人は規則をもつから文化がある」などと考えるとよいかもしれません。

人が、自分の文化圏と異なる文化圏に入っていくと、「異文化」というものを経験します。しかし、文化的氷山のモデルからすると、そこで表面的に見たり聞いたりした「異文化」は、その文化の1割くらいでしかないということになります。そこに長く滞在したり、そこで生活をしたりすれば、多少は残りの9割を理解できるようになるかもしれませんが。

人はその地域や社会の文化的影響を受けますから、文化的氷山のモデルは人そのものにも当てはまるのかもしれません。

異文化で育ってきた人と意思疎通をするときには、「相手は何々語を話している」「相手は何々教を信じている」「食べものは何々を好む」といった知覚的にわかる情報だけでなく、「どういう価値観をもっているか」「どういった考え方をしているのか」といったことにも意識すると、理解しあえるようになるものかもしれません。かんたんなことではありませんが。

参考資料
The United Church of Canada “The Cultural Iceberg”
http://www.united-church.ca/sites/default/files/resources/cultural-iceberg.pdf
ウィキペディア「エドワード・ホール」
https://ja.wikipedia.org/wiki/エドワード・ホール
中村良廣「異文化コミュニケーションと実践型教育」
https://chikushi-u.repo.nii.ac.jp/?action=repository_uri&item_id=206
| - | 11:41 | comments(0) | trackbacks(0)
『ANAの教え方』発売


新刊の案内です。

このたび、全日本空輸(ANA)グループのANAビジネスソリューションが、『人もチームもすぐ動く ANAの教え方』という本を出しました。出版社はKADOKAWA。編集者は同社の田中怜子さんです。

KADOKAWAが『ANAの……』という書名で出す本はこれが3冊目。帯の文言によると、1冊目の『ANAの口ぐせ』、2冊目の『ANAの気づかい』は、合わせて「12万部突破」を記録しているようです。

ANAの上司や先輩が、部下や後輩たちにどんなことをどう教えてきたのか。その要点が35個、載っています。

たとえば、「『代行する』と人は成長する」。

操縦士には、機長と副操縦士がいます。ANAは、副操縦士を機長に育てるとき、機長とまったく同じ仕事をさせる「機長見習い」という方法をとるそうです。

機長と副操縦士では役割がちがいます。「機長見習い」として飛行を迎えた副操縦士は、飛行前に運行計画をたてることから飛行後に乗務員に解散を伝えるまで、すべて「機長」としての役割をつとめるとのこと。

また、客室乗務員にも、チーフパーサーとよばれる長と、一般の乗務員とがいます。一般の乗務員がチーフパーサーをめざしているとき「ポジション・リクエスト」という申し出をすることがあるとのこと。これは、自分が成長するためにチーフ・パーサー役を代行すること。

こうした事例から、「後輩が自ら成長していくのを促す最も効果的な方法、それは『任せる』ことです」と断言しています。

さらに、「一部を任せるのでなく、最初から最後までを任せきる」ことや「責任がとれる範囲内で任せる」ことなど、ANAが実践している要点が書かれています。

こうした「教え方」の根底にあるのは、「先輩は、後輩が成長するためのサポーターである」という考えかた。社員がみずからボトムアップ的に伸びていくのを、先輩が支援するといった考えかたが基本となっているようです。かつての「スチュワーデス物語」のイメージとは隔世の感があります。といってもドラマであり、ANAを舞台にしてもいませんが……。

章立ては、第1章「ANAの先輩は、後輩の『サポーター』」、第2章「ANAの先輩は、思い切って『任せる』」、第3章「ANAの先輩は、一人を『チーム』で育てる」、第4章「ANAの先輩は、『褒める、叱る』に心を込める」、第5章「ANAの先輩は、自分自身も『教わる』」というもの。

そでの「『手取り足取り』教えなくても、結果は出る!」といった文言に惹かれて、中身を読んでみる人もいることでしょう。

『ANAの教え方』は、こちらでどうぞ。
https://www.amazon.co.jp/dp/404601749X/

この本の執筆協力をしました。
| - | 23:47 | comments(0) | trackbacks(0)
「生命が存在」は劇的にはやってこない

画像作者:NASA / JPL-Caltech

米国航空宇宙局(NASA:National Aeronautics and Space Administration)は(2017年)2月23日(木)、地球とにた7個の惑星を見つけ、生命の存在する可能性のあるものをふくまれていると発表しました。

7個の惑星は、いずれも地球からおよそ40光年先にある「TRAPPIST-1」という恒星のまわりにあるもの。恒星は、表面温度がおよそ1400度しかなく「超低温矮星」ともよばれています。

7個の惑星のすべてが液体の水をもちうるもので、そのうち3個が生命が誕生するのに適した領域に入っているといいます。

地球から光を放ったとしても、これらの惑星に届くまで40年かかります。いますぐこの惑星までたどりつくというのは、探査衛星も、ましてや人間もできません。

そのため、今回の惑星のような地球から遠く離れた惑星に、生命がいるかどうかは、地球に届くわずかな情報を頼りに推測していくしかありません。

その手がかりを、研究者たちは「バイオマーカー」とよんでいます。直訳すると「生命のしるし」。

バイオマーカーと考えられてきたのは酸素です。いまの地球でも酸素のある環境のもとで多くの生きものが生きています。

しかし、生命が存在するかは関係なく、惑星にたんに酸素があるだけという場合もあるとということが研究者たちに指摘されはじめました。もし、その惑星に水があると、恒星からの紫外線で水が壊れて酸素と水素になり、水素は軽いため宇宙に逃げていき、酸素だけが残されるというわけです。

酸素があることは必要条件にあらず。酸素があることとともに、もうひとつ、光合成をする生きものがないと存在しない有機分子があること。これが、いまの時点で「バイオマーカーがあるといえる状態」と考えられています。

地球ではない天体に「生命がいる」ということが確実になれば、人がもってきた「私たち生命はかけがえのない存在だ」という価値観は葬られ、「宇宙には生命の多様性がある」という新たな価値観が生まれることになります。

しかし、その転換は、宇宙船に乗って宇宙人が地球にやってきたなどという劇的なものではなさそうです。

太陽系の外に惑星がたくさんあることがわかり、今回のように生命のいる可能性のある惑星がすこしずつ見つかっていき、バイオマーカーを得られたかもしれないといった観測結果が出ていき……。

そのような感じで、すこしずつ状況証拠が揃っていき、人びとにもいつのまにか「宇宙に生命がいる」という感覚に支配されていくのでしょう。今回の発表は、その状況に一歩、進んだことを意味します。

参考資料
米国航空宇宙局 2017年2月23日発表 “NASA Telescope Reveals Largest Batch of Earth-Size, Habitable-Zone Planets Around Single Star”
https://www.nasa.gov/press-release/nasa-telescope-reveals-largest-batch-of-earth-size-habitable-zone-planets-around
須藤靖「系外惑星とバイオマーカー 生命􏰀存在を伝える」
http://www-utap.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~suto/myresearch/biomarker-2014July22.pdf
三菱電機 読む宇宙旅行 2016年5月26日掲載「系外惑星が大量に発見される時代の『系外生命』の探し方」
https://www.mitsubishielectric.co.jp/me/dspace/column/c1605_2.html
| - | 10:56 | comments(0) | trackbacks(0)
日常行動、ストレス行動、動機から個人を知り、仕事に活かす


仕事をしている人のもつ行動のとりかたがわかれば、それを仕事に活かせるかもしれない。そのような考えかたから、企業が社員に受けさせるテストがあります。

世界的におこなわれている個人行動様式テストのうち、代表的なもののひとつに「ホーガンアセスメント」があります。

これは、米国の心理学者ロバート・ホーガン(1937-)が開発したテストです。ホーガン1960年代から個人の行動様式についての研究をしてきました。1987年には、ホーガンアセスメントシステムズ社を創始しています。

個人の能力に影響をあたえる「個人の行動の源泉」を明らかにするため、大きく三つの診断ツールが使われます。ホーガン社と提携している富士ゼロックス総合教育研究所の発表資料によると、それはつぎのとおり。

一つ目は「ホーガン・パーソナリティ・インベントリー」。その人の通常の状況における行動様式などを明らかにするもの。職務への適正や効果的な対人関係、またキャリアの成功に必要な特性などを測定します。測定の尺度には、たとえば、「適応性」「社交性」「慎重性」「好奇心」「学習方法」などがあります。

二つ目は「ホーガン・ディベロップメント・サーベイ」。キャリアや能力に影響をあたえるリスクの傾向を明らかにするもの。ストレスを受けているときや疲れているとき、また精神的に不安定なときに起こりうる対人行動の特性を測定します。この測定では「興奮しやすい」「懐疑的」「用心深い」「想像を好む」「勤勉な」「忠実な」などのことばからなる尺度が使われます。

三つ目は「モーティブ・バリュー・プリファレンス・インベントリー」。行動をもたらす動機、価値観、嗜好性などを測定します。尺度には「認知欲求」「権力志向」「快楽志向」「利他主義」「審美性」「科学志向」などがあります。

これらの測定をすることで、その人が「なぜ、その行動をとっているか」あるいは「なぜ、その行動がとれないか」を確かめることができるといいます。それによって「能力開発のための基盤」を理解し、「効果的な行動変革」につなげることをめざすといいます。

21世紀以降、企業のグローバル化が進み、昔ではあまり考えられなかったような、さまざまな背景をもった人たちで組織がつくられることが多くなりました。仕事をする人の特性がさまざまになっているなかで、国や地域、業種、消臭を問わず、どんなはたらく人にも通用するようなテストの重要性が高まってきています。

参考資料
富士ゼロックス 2014年1月30日発表「富士ゼロックス総合教育研究所が米国ホーガンアセスメントシステムズ社と提携」
http://www.fxli.co.jp/wp-content/uploads/2014/10/2014-0130.pdf
富士ゼロックス総合教育研究所 2014年10月1日発表「HOGAN ASSESSMENT概要 ご説明資料」
http://www.fxli.co.jp/wp-content/uploads/2014/09/bc04d91e091edfea6d9403a5c8397214.pdf
富士ゼロックス「Dr. ロバート・ホーガン 来日記念イベント ホーガンアセスメントで 何ができるのか?」
http://www.fxli.co.jp/data/pdf/2015-12.pdf
wikipedia “Robert Hogan(psychologist)”
https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Hogan_(psychologist)
| - | 12:28 | comments(0) | trackbacks(0)
意思疎通では「伝える」よりもまず「聴く」から――法則古今東西(27)
これまでの「法則古今東西」はこちら。



法則とは、「一定の条件のもとであればかならず成立するものだ」とする考えかたがあります。しかし、それほど厳密でなくても、一般的に当てはまる傾向にあるものごとを「法則」とよぶことがあります。

自然科学でなく、経営学の組織論には「LILIの法則」とよばれる法則があります。経験則ともいえるかもしれません。

「LILI」は、それぞれの動詞にあたることばの頭文字をとったもの。

・Listen …… 聴く。
・Inform …… 伝える。
・Lead …… 導く。
・Involve …… 巻きこむ。

これらが、なにを意味しているかというと、組織において意思疎通を効果的におこなうための要素でということです。そして、「LILI」とあるように、その順番も上記のとおりにするものとされています。

「LILIの法則」では、まず「この課題について、まず、みなさんのご意見を聞かせてくれませんか」と言って、相手の話を聴くことからはじめます。

そして、そのあとに自分の考えている課題解決策や、自分としての答えを伝えるようにします。「私はこの課題について、こう考えているんだ」と。

その後、自分の進めたい方向に相手を導いて、最終的に相手を巻きこみます。

この4つの要素では、最終的な目的は「巻きこむ」でしょう。すると、その前の段階はやはり「導く」となるでしょう。すると、残る「聴く」と「伝える」の順番が大切ということになります。

会議などでは、たいてい「今日の課題はこういうものです。まず、説明します」「ではこの課題をどうするか。対策を考えてみました」のように「伝える」ことから始まります。

しかし、「聴く」ことから始めることで、聴かれた側は自分の考えなどを口に出して言いますから、ここで主体性が生まれるようになるといいます。その効果が、「導く」や「巻き込む」の段階にまで効いてくるのでしょう。

「LILIの法則」を唱えるのは、経営者の柴田励司さん。組織・人事コンサルティング企業のマーサーで「コミュニケーション・プラクティス」という、意思疎通を円滑にする原理・原則を探すような作業をしているなかで発見したといいます。

参考資料
GLOBIS 知見録 柴田励司氏「次世代のリーダーに必要な力とは? 社長のプロが語る!“デキるリーダー”になるためのエッセンス」
http://globis.jp/article/2401
伊藤武彦「コモナリティ ダイバーシティの次のステージとリーダーに求められる能力」
http://ci.nii.ac.jp/naid/110009916434
| - | 23:57 | comments(0) | trackbacks(0)
「進化」の使いかた適切か、静かな議論に

写真作者:Rick Wagner

「進化」という言葉は、社会であたりまえに使われています。たとえば、新聞の見出しには「展覧会の新世界へ 体感型に進化、撮影可の動きも」「プリウスPHV、進化 ガソリンなしで走れる距離、2倍に」「高速バスが豪華に進化 宿がわり、移動に楽しみ」といったように「進化」が使われています。

しかし、「進化」をめぐっては「適切な使われかたをしているのか」といった議論が静かに起きています。

「適切な使われ方」かどうかを判断するには、それを考えるための尺度が必要です。「進化」の場合、もともと生物学におけることばであるということから、生物学で使われる「進化」の意味するものが、その尺度ということになります。

国語辞典では、生物についての「進化」に、つぎのような意味をあたえています。

「生物は不変のものではなく,長大な年月の間に次第に変化して現生の複雑で多様な生物が生じた,という考えに基づく歴史的変化の過程。種類の多様化と,環境への適応による形態機能行動などの変化がみられる。この変化は,必ずしも進歩とは限らない」

最後の「この変化は、必ずしも進歩とは限らない」と書かれてあるところが要点となります。次第によくなっていくことを「進歩」とすれば、「進化」は次第によくなっていくことにかぎったことではない、としているのです。具体的には、体のなかの機能をもっていた器官が、単純なものに縮小していく「退化」も「進化」に含まれるわけです。

生物学とは異なる分野で「進化」が使われているときは、かならずといってよいほど、よくなっていくことについて「進化」が使われています。

ただし、「退化」の意味で「進化」が使われていないからといって、それでもって「『進化』のふさわしい使いかたがされていない」ということにはなりません。生物の進化では、次第によくなっていく「進歩」もたしかにたくさんあり、生物以外での「進化」は、生物の「進化」のなかの「進歩」の側面だけを表したものだともいえるからです。

なかには、生物学での「進化」と、厳密なまでにおなじことを意味する使いかたでなければ許すまじ、とするような論もあります。『入門! 進化生物学』という新書で、動物行動学の専門家である小原嘉明さんはこう述べています。

「進化とは、集団における任意の遺伝子(あるいはその遺伝子によって形成される形質、またはその形質を有する個体)の頻度(割合)が、世代の経過とともに変化(増加)することである。したがって進化という言葉は、そもそも世代交代によって生命を引き継いでいく生物界固有の事象についての用語であって、非生物界の事象にこの用語を適用する余地は全くない」

もっとも、そのあとに「もちろんこれらの用法は単純な比喩であるから、そのこと自体には特に目くじらを立てることはないかもしれないが……」とも加えてはいますが。

「進化」ということばを、生物学で使われる「進化」を意識しないで使うことをよしとしない人はいるということでしょう。社会のものごとについて指す「進化」については、かなりは「進歩」で置きかえられそうです。

けれども、いまさら「進化するイチロー」を「進歩するイチロー」と置きかえたら、違和感を覚える人はいそうではあります。

参考資料
小原嘉明『入門! 進化生物学』
https://www.amazon.co.jp/dp/4121024141
『スーパー大辞林』
| - | 23:57 | comments(0) | trackbacks(0)
火は現象、火のもとは物質


「火の正体はなんなのか」という質問がインターネットなどによく上がっています。物質は、気体か液体か固体か、いずれかの状態をとることから、「火は
このうちのなにに分類されるのでしょうか」といった質問がされます。

これに対するたいていの答は「どれでもありません」というもの。そして「火は物質でなく現象であるから」という理由が加わります。

火からは熱と光が発せられます。それが火というわけ。たとえば、太陽から射しこむ光について「これって気体ですか、それとも液体ですか」とは聞かないのとおなじことということでしょう。

しかし、火をもたらしているものの状態については「気体か、液体か、固体か」という質問はなりたちます。火には生じる原因があるからです。

物質と酸素が結びつく、酸化という反応があります。この反応は燃やす材料となる物質と酸素、それに火が生じるのに必要なエネルギーが揃うとことで起きるもの。たとえば、紙を、空気つまり酸素のあるところで置いて、それに向けて虫眼鏡などで光を集めれば、やがて火が生じるはずです。

熱は上にあるとおり現象ですが、紙それに酸素は明らかに分子でできた物質です。この場合、火をもたらしているものの状態については「固体と気体」ということになります。

ただし、材料となる物質はかならずしも固体である必要はありません。たとえば燃料の灯油は液体ですし、ガスは気体です。また、酸素もマイナス183度以下になると液体になりますし、マイナス218.79度以下になると液体になり、それぞれの状態で燃やすために使われます。

そのため、火をもたしているものの状態は「気体でも、液体でも、固体でもありえて、状況によってそれが決まる」ということになります。

国語辞典には、「火」とは「物質が燃えるときに出す炎や熱。また,燃えたり熱せられて赤熱したもの」とあります。

それにしても、どんと焼きなどを見れば、あきらかに火を感じられる場所と、そのまわりの火が感じられない場所があるわけであって、「火はものである」と考えてしまうのもむりのないことではないでしょうか。

参考資料
東邦大学メディアネットセンター「火炎の科学と物理 物質と燃焼の基礎知識」
http://www.mnc.toho-u.ac.jp/v-lab/combustion/comb01/basic02.html
法科学鑑定研究所「燃える・燃焼の基本」
http://alfs-inc.com/firesciences/firesciences002.htm
ブリタニカ国際大百科事典「液体酸素」
https://kotobank.jp/word/液体酸素-36197
ウィキペディア「固体酸素」
https://ja.wikipedia.org/wiki/固体酸素
| - | 12:36 | comments(0) | trackbacks(0)
「サヴォイ」のビーフカレー――カレーまみれのアネクドート(93)


神戸市中央区の、JR三宮駅と元町駅にかけての線路のまわりには、こじんまりとした店が寄せあつまっています。東海道線の高架下にある「神戸三宮高架商店街」の店々もそうですが、並行する県道21号線の南側にある「さんセンタープラザ」の店々もしかりです。

3棟が連なるこのプラザは、1970年から1980年にかけて建てられたもの。低い天井や、段差のある通路などには「昭和」が感じられます。

そして、地下1階を中心にところ狭し並ぶ飲食店。なかでも、カレーを出す店の多いこと多いこと。プラザのホームページを見ると、およそ150の飲食店があるなかでカレー店あるいはインド料理店はすくなくとも10軒以上。徒歩圏内にカレーを出す店が10軒もある街は、そうはありますまい。

ひときわ狭い店が、センタープラザ東館地下1階にある「サヴォイ」。カウンター席のみで、小さくて座位置の高い椅子が間隔なく置かれています。大きな荷物を持って入ると、置き場所は足元のみ。椅子を後にずらさねばならず、あとから入ってくる客に椅子脚を蹴られることに……。

食べる環境としては厳しいものの、客がひっきりなしに入ってきます。創業は1988年といいますから、もうすぐ開業30年。神戸市民に支持されているのでしょう。

カレーの献立は「ビーフカレー」のみ。あとは「玉子」と「ビール」があるだけ。カレーにはキャベツの千切りがついてきます。また食卓のうえには、福神漬、らっきょう、ピクルス、にんじんといった定番の添えものも。

ライスは鬱金の黄色で染まっています。そのうえに牛肉の筋が入ったルゥがたっぷり注がれています。ルゥの見た目は辛そうですが、汗が吹き出すほど辛いというわけでもありません。

ライスはややかため。しかし、ルゥとかき混ぜて食べるとすると、かためのほうがちょうどよいともいえます。

普通盛りでも大盛りでも650円。狭い店でカレーの献立はひとつだけといった究極的なやりかたで保っているのでしょう。

「サヴォイ」の食べログ情報はこちらです。
https://tabelog.com/hyogo/A2801/A280101/28000095/

ちなみに、この店のホームページもきわめて簡素なもの。1ページしかありません。けれども価格以外の必要な情報はすべて入っています。
http://www.jazz-voice.biz/savoy/savoy_1.html
| - | 21:59 | comments(0) | trackbacks(0)
ネズミ以外の動物でもねらった遺伝子を破壊
研究者たちは、人を対象とした実験ができないとき、代わりに人以外の動物を使って実験することがあります。

よく知られている実験用の動物はマウスやラットなどの齧歯類、つまりネズミたちです。野生からは切りはなされ、研究の目的で育種されたり管理されたりしています。

マウスやラットは実験用の動物として定着しているので、慣れている研究者たちにとっては扱いやすいもの。しかし、より人に近い体の特徴をもった動物のほうが、多くの場合「人の代わり」を果たしてくれるものです。となると、人やサルの仲間の霊長類を使うことになります。

しかし、実験の内容によっては、霊長類を使いたくても、マウスやラットを使わざるをえない事情もありました。「標的遺伝子ノックアウト」という技術を当てはめられるのは、実験用の動物のなかでも、マウスやラットにかぎられていたのです。

標的遺伝子ノックアウトとは、動物がもともともっている遺伝子のなかで、ねらった遺伝子を機能させなくすること。「標的」の「遺伝子」を「ノックアウト」させるわけです。

ふつうなら機能する遺伝子を機能させなくするということは、遺伝子が機能しなくなることで生じる病気の状態ににせることを意味します。こうして病気のモデルとなる実験用動物を用意して、病気の研究をすすめるのです。

標的遺伝子ノックアウト動物をつくるには、あらかじめ目的の遺伝子が改変されている胚性幹細胞をつくり、動物の胚にそれを入れて、「キメラ動物」を誕生させる必要があります。キメラ動物とは、2種類以上の遺伝的に異なる細胞からなる動物のこと。

しかし、このキメラの状態をつくるために必要な胚性幹細胞は、いままでマウスやラットのものしかつくれていません。

ところが、新しく開発された「ゲノム編集」という遺伝子改変技術を使うことで、マウスやラットでしか標的遺伝子ノックアウト動物をつくれないという問題はなくなりました。

ゲノム編集の方法では、実験に使いたい動物の受精卵にある、ねらった遺伝子を壊します。その後、受精卵は細胞分裂をしていき、赤ちゃん、そして成体になっていきますが、おおもとの受精卵のねらった遺伝子が機能しないように改変されているので、赤ちゃんや成体になってもやはりその遺伝子は機能しません。

2016年にはこの方法が霊長類の一種であるコモンマーモセットに使われ、標的遺伝子ノックアウトコモンマーモセットが誕生しました。免疫のしくみをはたらかなくさせたもので、人の重症先天性免疫不全症という病気ににた症状を示したといいます。


コモンマーモセット
写真作者:PROtomosuke214

胚性幹細胞を用意して、そこからキメラ動物を誕生させてから、標的遺伝子ノックアウトマウスやラットをつくるという作業は、とても手間と時間のかかるものでもありました。

しかし、ゲノム編集の技術を使うことで、胚性幹細胞をつくる必要がなくなるため、標的遺伝子ノックアウトマウスをつくるにも、手間や時間がかからずに済みます。

ゲノム編集の技術を使えば、原理的には、あらゆる動物のねらった遺伝子を機能させなくすることができ、しかも、手間や時間も、マウスで行っていた旧来のやり方よりはかからないということになります。

ただし、「あらゆる動物のねらった遺伝子を機能させなくする」には人も含まれます。

実際、2015年には中国の研究者たちが、人の受精卵にゲノム編集をおこない、遺伝子の改変を試みたことが伝えられました。受精卵の遺伝子の改変は、その影響がその個体だけでなく、次世代にも、その後の世代に及んでいくため重大なものです。そのためこの研究は科学界で大きな議論と話題をもたらしました。

開発してしまったからには、その技術を「どう使うのか」の議論が必要となります。

参考資料
佐々木えりか「霊長類受精卵のゲノム編集」『科学』2016年12月号
実験医学 online 「標的遺伝子ノックアウト動物」
https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/3963.html
実験動物中央研究所、慶應義塾大学、日本医療研究開発機構 2016年7月1日発表「ゲノム編集技術により免疫不全霊長類の作出に成功」
http://www.amed.go.jp/news/release_20160701.html
| - | 16:32 | comments(0) | trackbacks(0)
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