科学技術のアネクドート

ものごとを正確に測ることは難しい――不確定性原理の新展開(2)



ドイツの物理学者だったウェルナー・ハイゼンベルクは「物の位置と運動量の両方を正確に得ることはできない」と唱えました。運動量とは、重さと速さを掛けあわせた量のこと。

たとえば、Aさんという人が、電子くらいの大きさしかない小さな粒について「位置」と「運動量」を測ろうとしたとします。

粒の位置それに運動量は、その粒に光をあてて反射する情報から知ることができます。

そこでまずAさんは、電子くらいの小さな粒がどこにあるのか、その位置を測ることにしました。波長の短い光をその粒にあててみると、粒の正確な位置が測れることがわかりました。

しかし、この調子で粒の運動量も測ろうとすると問題が起きました。

波長の短い光というのは高いエネルギーをもつもの。この光をあてると、粒はひゅーんとスピードを上げて飛んでいってしまいました。粒を測るための道具である短い波の光が、粒の運動量を変えてしまったのです。

ならばということで、Aさんは、こんどは粒の運動量を測ろうとしました。さっきのように、光の高いエネルギーで粒が飛んでいってしまわぬよう、波の長い光を粒に当てました。

しかし、この調子で粒の位置も測ろうとすると問題が起きました。波長の長い光というのはきめ細かくありません。この光をあてても、粒のきちんとした位置までははかることはできないのです。

Aさんは思いました。「ハイゼンベルクの言うとおりだ……」。

そもそも「ものごとを正確に測る」ということはほんとうはむずかしいものです。

たとえば、「コップに入った水の温度を正確に測りなさい」という問題に対して、温度計をコップの水に入れて温度の値を見るとします。しかし、温度計がもっている熱が、コップのなかの水の温度を変えてしまうのは、かんたんに想像できます。

ハイゼンベルクは、「ものごとを測るということには限界があるのだ」という考えを物理学者たちに説明するために、この原理を式にして表しました。

「位置の測定誤差 × 運動量の測定誤差 ≧ プランク定数 / 4π」

大切なのは、この式が「≧」を境にした不等式で表されていることです。たとえば「x × y ≧ 1」という式を考えれば、xをいくら小さくしてもその分yが大きくなり、yをいくら小さくしてもその分xが大きくなることは明らかです。

おなじように、位置の測定誤差をいくら小さくしても運動量の測定誤差はその分だけ大きくなってしまい、逆に運動量の測定誤差をいくら小さくしても位置の測定誤差はその分だけ大きくなってしまう。このことをこの不等式は示しています。

こうしてハイゼンベルクの不確定性原理は確立されました。

この「あっちが立てば、こっちが立たず」を示す不確定性原理の式を書きなおしたのが、名古屋大学の小澤正直さんです。つづく。

参考記事
ウェブ論座 尾関章「教科書だって疑ってかかれ―不確定性原理考」
読売新聞 2012年1月16日付「不確定性原理に欠陥…量子物理学の原理崩す成果」
| - | 23:17 | comments(0) | trackbacks(0)
「『老化防止に納豆』を科学する」


日本ビジネスプレスのウェブニュース「JBpress」で、きょう(2011年)1月27日(金)、「『老化防止に納豆』を科学する」という記事が配信されました。記事の取材と執筆をしました。

日本の食卓に欠かせない食材のひとつが納豆です。箸でかきまぜると糸を引くあの姿、鼻に届く独特のかおり、口と舌で覚えるねばねばの食感。食材としての特徴を客観的に捉えると、納豆はかなり“際もの”といえるのかもしれません。

糸を引く納豆の起源は謎とされています。しかし、納豆菌がいる稲藁と、それに納豆菌が増える場所である大豆のふたつがあれば、あとは温度の条件により「大豆」は「納豆」へと変身します。どの次期のどの場所でも、納豆が誕生する可能性があったともいえるのでしょう。

日本人は、納豆に対して、おいしい風味であるという認識とともに、健康を保つためにも大切であるという認識を長らくもちつづけてきたのでしょう。記事では、納豆の健康効果について、代表的なものを紹介しています。

なかでも、ここ何年かで注目があつまっているのは「納豆にはポリアミンという物質が豊富に含まれている」という事実。

「ポリアミン」は、「多くの」という意味をもつ「ポリ」と、化合物の一種である「アミン」ということばによるもの。「アミンを多くもっている物質」といった意味になります。

納豆にポリアミンが豊富に含まれていることはわかっています。では、ポリアミンはからだに摂りいれられると、どのようなはたらきをするのでしょう。

ポリアミンが活躍する場所は血管のなか。とくに、動脈とよばれる、心臓からからだのすみずみへと血が運ばれていく血管のなかです。

動脈が弾力を失ってもろくなると「動脈硬化」という病気になり、動脈硬化がさらに進むと「脳梗塞」や「心筋梗塞」などのこわい病気へとつながります。

近年、その動脈硬化が起きる要因として、「動脈の炎症」がいわれてきました。動脈が慢性的にヒリヒリの状態になって、それが動脈硬化をもたらすというのです。

この「動脈の炎症」から「動脈硬化」へという道筋を阻むのではないかと期待されているのがポリアミンです。記事では、どのように動脈が炎症を起こし、どのようにポリアミンがそれを阻むのか、また、納豆を毎日食べた人と納豆を毎日食べなかった人のあいだでどのような差が生まれたのか、といった研究の中身を紹介していきます。

記事では、全国納豆協同組合連合会専務理事の松永進さんに話をうかがいました。日本人の健康長寿は納豆がつくった──。そんな表現が似合うほどの知見が納豆からは数多く見出されています。

JBpressの記事「『老化防止に納豆』を科学する 食卓の定番「納豆」の歩んできた道(後篇)」はこちら。
納豆の歴史を追った前篇「起源は謎、日本人の好物『ネバネバ、ズルズル』」はこちらです。
| - | 21:59 | comments(1) | trackbacks(0)
「練馬区のタヌキ情報」が急減


動物ジャーナリストの宮本拓海さんが(2012年)1月、「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析」を発表しました。

「いまの東京にもタヌキがいる」という事実は、メディアなどでとりあげられ、東京の人たちを中心にかなり知られるようになりました。その情報の火付け役のひとりが宮本さん。いまも、東京に棲むタヌキの情報を集め、そしてみずからでタヌキを追いつづけています。

今回の発表は、2009年から2011年の3年間、東京23区でのタヌキ、ハクビシン、アライグマが目撃されたという情報を集計したもの。タヌキ454件、ハクビシン558件、アライグマ43件の目撃情報があったといいます。

宮本さんが考察しているのは「練馬のパラドックス」と銘うった現象です。

練馬区は、東京23区の北西にあり、すぐ北は埼玉県。武蔵野大地という大きな大地のなかにあり、23区のなかでは指折りの自然が豊富な区です。

しかし、2010年から2011年にかけて、練馬区でタヌキを目撃したという情報が急減したといいます。2009年は23区の全情報中22.9%を「練馬区のタヌキ」で占めていたのに、2010年は9.9%、2011年は0.8%と一気に落ちています。

こういう情報を前にすると人は「みどりの豊富だった地域で自然破壊が進んでいるのでは」と考えてしまいがち。いっぽう、宮本さんはかんたんに「みどりが減ったから」と決めつけてはいません。

練馬区でタヌキを目撃したという情報が減ったことについて、「人口密度が低いこと。人口密度が低いと、目撃確率も低くなる」「タヌキの存在が珍しくないため」「『これ以上の目撃情報は必要ないだろう』と思い込まれているのかもしれない」などの理由をあげています。

これらは、目撃情報を集めることによって、統計をとるという方法の課題にも捉えられるでしょう。生息の集中地、個体群の行動範囲、営巣場所などをつかむには、1平方キロメートルあたり2件以上の目撃情報が必要とのこと。しかし、練馬区やとなりの板橋区ではそれに達せず、「長期的な調査では、この欠落は大きな痛手」としています。

宮本さんは、「本当に生息数が減少している可能性も否定できず、今後の情報収集では特に注意をしていかなければならない」ともしています。

状況がわかるのは、タヌキについての多くの情報が寄せられてこそ。「東京タヌキ探検隊!はあらゆる地域の目撃情報を必要としている。練馬区、板橋区の目撃情報を遠慮なく知らせてほしい」と宮本さんは市民に呼びかけています。

「東京都23区内のタヌキ、ハクビシン、アライグマの目撃情報の集計と分析」(2012年1月版)はこちらです。
| - | 23:54 | comments(0) | trackbacks(0)
あちらが立てば、こちらが立たず――不確定性原理の新展開(1)


(2012年)1月、「ハイゼンベルクの不確定性原理の欠陥実証」という物理学のニュースが話題なりました。名古屋大学の数学者である小澤正直さんと、ウィーン工科大学の物理学者である長谷川祐司さんによる研究の成果といいます。

「ハイゼンベルクの不確定性原理」とは、ドイツの物理学者だったウェルナー・ハイゼンベルク(1901-1976)によって1927年に提唱された物理学の基本的な原則です。「20世紀は物理学の時代」などといわれてきました。つぎつぎと、物理学者によってあたらしい物理の原理や法則がうちたてられていったからです。

不確定性原理は、物理の時代をつくるのに欠かせない、大切な原理と評価されています。大学の基礎物理学の教科書に、ハイゼンベルクの不確定性原理はかならずといってよいほど載っています。

「あっちが立てばこっち立たず」ということばがあります。ハイゼンベルクは、物理の世界でも、「あっちが立てば、こっちが立たず」がかならず起きるということを唱えました。

たとえば、Aさんという人が、動いている球に興味があって、「この球の、位置と運動量を測ろう」と考えたとします。「位置」というのは、球がどこにあるかということ。「運動量」というのは、球の重さと速さがどのくらいか、ということです。

しかし、この人にとって残念なことに、ハイゼンベルクは「物の位置と運動量の両方を正確に得ることはできないのです」と唱えていたのです。

Aさんが、球の位置を正確に測ろうとするとします。すると、どうしても球の運動量、つまり重さと速さの正確な値を知ることができないというのです。いっぽう、Aさんが、球の運動量、つまり重さと速さの値を正確に測ろうとするとします。すると、どうしても球の正確な位置を知ることはできないのです。

「でもさ、野球の球がどの位置にあるのか、そして、どのくらいの重さで時速何キロ出ているのかといったことは測れそうなものだが」とAさんは考えました。そのとおり、目に見える大きな球であれば、それがいまどの位置にあって、運動量はどうなのかを調べることはできます。

しかし、球の大きさがどんどん小さくなっていき、たとえば電子のような目には見えないとても小さな粒(つぶ)を測ろうすると問題が起きてきます。ハイゼンベルクの不確定性原理にしたがうと、同時に位置と運動量を正確に知ることはできないのです。まさに「あちらが立てば、こちらが立たず」。

なぜ、「あちらが立てば、こちらが立たず」が起きてしまうのでしょう。ハイゼンベルクは「ものごとを測るということには限界があるのだ」と考えました。つづく。

ハイゼンベルクの不確定性原理と、このたびの小澤正直さん・長谷川祐司さんによる不確定性原理の新展開を、何回かにわけて追っていきます。

参考文献
名古屋大学
「現代物理学の根幹である不確定性原理の破れを観測 ナノの世界の深淵を語る基本原理に穴」
| - | 23:37 | comments(0) | trackbacks(0)
KもMもHもあり――ビタミンの発見(下)


動物が、自分のからだでつくることはできないものの、自分のからだの健康に欠かせない物質がビタミンです。

ビタミンは、A、B、Cなどのほかにも、いろいろな種類があります。

「ビタミンK」は、血が固まるのを促すはたらきをもったビタミン。この「K」は、ドイツ語で「凝固」を意味する“Koagulation”の頭文字をとったもの。種類としてはおもに2種類があります。

まず、「ビタミンK1」は「フィロキノン」ともよばれ、緑黄色野菜や海藻などのなかに多く含まれています。また「ビタミンK2」は「メナキノン」ともよばれ、納豆などのなかに多く含まれています。

ビタミンKは、からだのなかにあるグルタミン酸というタンパク質を、γカルボキシグルタミン酸という物質にかえる手助けをします。このビタミンKのはたらきによって、血液を固まらせる物質がカルシウムと結合するようになり、これで血液が正常に固まっていきます。

また、ビタミンKのうち、とくにビタミンK2には、カルシウムの吸収を助けて骨を強くさせるというはたらきもあるといいます。骨をつくるために、ビタミンK2は欠かせないわけです。

「ビタミンM」もあります。ほうれんそうなどの緑黄色野菜に含まれていることから「葉酸」ともよばれるビタミン。動物の肝臓つまりレバーからも多く摂ることができます。このビタミンMは、血を造るのに有効とされています。なお、ビタミンMは、「ビタミンB9」ともよばれ、ビタミンBの仲間に含まれています。

「ビタミンH」も。卵黄のなかから発見されたビタミンで、「ビオチン」とよばれることも多くあります。この「H」はドイツ語で「皮膚」を意味する“Haut”から来たもの。マウスの皮膚にできる炎症を防ぐということから、この「H」がつけられました。なおビタミンHもビタミンBの仲間に含まれていて「ビタミンB7」ともよばれています。

ほかにも、「ビタミンF」「ビタミンJ」「ビタミンL」「ビタミンN」「ビタミンO」「ビタミンP」「ビタミンQ」「ビタミンT」「ビタミンV」「ビタミンU」などとよばれる栄養素もあります。ただし、これらは、かつてビタミンだと思われて名付けられたものの、その後、ほかのビタミンとはたらきがおなじだとわかったなどしたため、いまでは「ビタミン様物質」とよばれています。

科学者たちは、ビタミンをつぎつぎと発見していきました。そして、「それが欠乏するとどのようなことが起きるか」を解明していきました。ビタミンは、人に健康な暮らしもたらす大切な要素です。そして、ビタミンの解明は、人に健康な暮らしをもたらす大切な知見です。

参考文献
町田忍『納豆大全!』

参考ホームページ
国立健康・栄養研究所「ビタミンKとは」
国立保健医療科学院「葉酸Q&A」
| - | 23:48 | comments(0) | trackbacks(0)
からだに大切でも自分のからだはつくれない――ビタミンの発見(上)
「ビタミン」と聞くと「からだによさそう」といった印象を強くもつ人は多いことでしょう。「仕事のビタミン」「恋のビタミン」「心のビタミン」などといったことばも多くあり、「摂ると元気が出る」といった語感があります。

からだによさそうだという印象があるいっぽう、ビタミンとはどういうものであるか、そのちゃんとした定義はあまり知られていません。また、ビタミンには、よく知られている種類のほか、さまざまなアルファベットがついた種類があることもあまり知られていません。

ポーランドの生化学者カシミール・フンク(1884-1967)は、下半身にだるさやまひが起きる「脚気」という病気の研究をしました。その結果、米ぬかに含まれる化学物質を摂らなくなると、人は脚気にかかることを発見しました。


カシミール・フンク

その化学物質は、「アミン」(amin)とよばれる種類に分類されます。そこにフンクは「生命にかかわる」という意味の「ビタ」(vita)という接頭辞をつけて、「ビタミン」(vitamin)と名づけたのでした。欠乏すると脚気を起こすこのビタミンは、いまビタミンB1とよばれています。

人は、米ぬかなどの食材からこの化学物質を摂らないと脚気になります。つまり、人は健康に生きていくうえでは、体の外から取り入れなければならない物質があるわけです。ビタミンB1のほかにも、つぎつぎとそうした物質が見つかっていきました。

そこでいま、「ビタミン」は、日本ビタミン学会などによって、つぎのように定義されています。

「微量で体内の代謝に重要な働きをしているにもかかわらず自分で作ることができない化合物」

からだの健康によいとされる物質や、生きていくうえで欠かせない物質はいろいろとあります。そのなかでもビタミンは、動物が自分自身のからだのなかではつくることができないという、ほかの物質とは異なる点があるわけです。

科学の進歩にともなって、ビタミンがつぎつぎと発見されていきました。いずれも足りないと発育不良になるビタミンA、口内のただれを起こすビタミンB2、貧血や衰弱などになるビタミンCなどはよく知られています。

ほかにも、ビタミンはいろいろあります。つづく。

参考ホームページ
日本ビタミン学会「ビタミンとは」
| - | 21:50 | comments(0) | trackbacks(0)
自分の雄しべと雌しべで次世代をつくらず子孫繁栄

桜の木にはつぎのような特徴があります。

「1本の木の花粉と雌しべからは、つぎの世代のたねをつくることができない」

多くの花では、雄しべの花粉が雌しべのあたまにくっつくことで、つぎの世代のたねが生まれます。桜にも、そのしくみがあります。しかし、1本の桜どうしのなかで、雄しべの花粉が雌しべのあたまにくっついたとしても、つぎの世代の桜はうまれないのです。

このように、ひとつの固体の花粉によって受精が行われない植物のしくみを「自家不和合性」といいます。

植物が自分自身の雄しべと雌しべで自分のこどもをつくらないようにすることには、利点があります。

利点のほうは、多様性ができるため、自分の遺伝子をより生き残らせることができる可能性が高くなるというものです。もし、自分自身で自分のこどもをつくれるしくみになっていると、ほかの種類の木との受粉をすることがないので、自分自身の純粋な遺伝子を何世代も受け継がせていくことになります。

いつの日か、その植物の遺伝子に対して攻撃するような強力なウイルスがあらわれたとしたら、その植物はいっせいに死んでしまうおそれがあります。

しかし、自家不和合性により、必然的にほかの種類の木との受精しか認められなければ、つぎの世代の植物は、2種類の遺伝子が混ざることになります。これをくりかえせば、強力なウイルスに対して負けない遺伝子が混ざった木も存在しだすでしょう。つまり、一斉にウイルスにやられてしまうようなことを防げ、遺伝子の繁栄につながるわけです。

いっぽうで、自分自身の雄しべと雌しべで自分のこどもをつくれないということは、かんたんにつぎの世代を生み出すことができないという欠点にもつながります。そのため、植物のなかには、自分の雄しべの花粉が自分の雌しべのあたまに付くことで、つぎの世代を誕生させる「自家受粉」のしくみをもっている植物もいます。

日本の街なかでよく見られるソメイヨシノという桜は、自家不和合性の植物。つまり、1本の木の花粉と雌しべからは、つぎの世代のたねをつくることができません。しかし、日本じゅうに見られるどのソメイヨシノも遺伝子のなかみはおなじとされます。つまり、ソメイヨシノは、一本ずつ人の手による挿し木や接ぎ木で、全国に広がっていったのです。
| - | 23:59 | comments(0) | trackbacks(0)
7回くりかえすと「新奇追求性」高し
新しくものが発売されたり、だれかが新しいファッションをしたりしているとき、すぐに飛びつく人と、なかなか飛びつかない人がいます。

あたらしいものが世に出たとき、最初に飛びつく人は“イノベーターズ”とよばれます。販売が始まってから販売が終わるまでのうち、最初の2.5%を占める人びとがイノベーターズです。

いっぽう、もうブームは去ったというころにようやく手を出す人は“ラッガーズ”とよばれます。「ぐずぐずしている人」という意味の“Laggard”からくるもので、ものを買った人のうち最後の16%がこの層に当たります。

もちろん、けっきょく買わなかったという人ももっと多くいるわけで、その人たちにくらべれば、ラッガーズも飛びつきがよいといえるのかもしれませんが。

新しもの好きであるかどうかという人の気質は、遺伝的な影響が大きくあるといわれています。

脳の神経から神経へと伝わっていく物質を神経伝達物質といいますが、そのなかのひとつにドーパミンという物質があります。アドレナリンやノルアドレナリンといった筋肉の収縮などに関係する物質の前身となる物質です。

神経細胞から放たれたドーパミンを、つぎの神経細胞で受けとるときの「受容体」という細胞のシステムに関係する遺伝子があることが、1990年代中頃までにわかっています。

この遺伝子がデオキシリボ核酸(DNA)のなかでくり返される回数は、人によって異なっていて、7回以上くり返されている人は、新しいものに対する興味が高いといういことが、英国の科学誌『ネイチャー・ジェネティクス』で発表されています。

じつは、日本人は、この新奇性追求に関わる遺伝子をもっている人は少なく、アングロサクソン系の人びとの25分の1ともいわれています。衝動買いをしたり、街なかで気になった人にすぐに声をかけたりといったことは、日本人にはあまり多くないのかもしれません。

この新規追求性が高いことが人にとって絶対的によいことかどうかについては、また別問題。それに、気質はそう変わらなくても、環境の慣れによって人の考えかたはもちろん変わってくるもの。「自分は新規追求性に欠ける」と信じているか「自分は新奇性追求が高い」と信じているかが、ほんとうは大切なのかもしれません。

科学研究費補助金データベース「パーソナリティ形成における遺伝的影響と養育環境との相互作用に関する心理、社会遺伝学的研究」
All About 中嶋泰憲「リスキーさに引かれる!? 新奇性追求気質」
ベンチャー通信Web「おもしろいことをやれば成功する 堀場雅夫」
| - | 23:53 | comments(0) | trackbacks(0)
『137億光年の宇宙論』発売


新刊のおしらせです。

『137億光年の宇宙論』という本が、このたび朝日新聞出版から出版されました。朝日新聞出版が2012年1月より刊行した「朝日おとなの学びなおし!」というシリーズの第一弾です。

著者は法政大学教授で天文学が専門の藤田貢崇さん。この本の編集の一部をしました。

宇宙や天文についての一般書はこれまでにもいろいろと出ています。そのなかでこの本の特長はつぎのようなもの。

まず、宇宙全体の話題を、それぞれの段階ごとに網羅していること。地球から見た宇宙の話から始まって、その後、太陽を眺め、惑星を眺め、銀河系の果てにたどりつき、ブラックホールをかすめ、暗黒物質(ダークマター)に近づきます。

「パワーズ・オブ・テン」という映画のように、だんだんと視点が宇宙の果てへと向かっていくわけです。宇宙全体の話を網羅することができたのは、著者の藤田さんの知識の広さによるもの。

また、宇宙観測で得られたきれいな天体のかずかずを集めた巻頭カラーページもあります。

コロナを放ったり、皆既日食のとき木もれ日のような光を放ったりといった太陽のさまざまな表情。渦巻き型や円盤型などの形をした銀河のかずかす。2011年11月に観測された、もっとも遠くにある銀河の写真などを見ることができます。

本の構成はつぎのようになっています。

第1章の「地球から宇宙を探る」では、天体観測が世界のどこでどのように行われているのかに焦点があてられ、いろいろな望遠鏡や天体観測所が紹介されています。

第2章「謎に満ちた星、太陽」では、私たちの母なる星である太陽の謎が多く紹介されています。皆既日食のときにしか見られないような“太陽の素顔”もわかります。

第3章「太陽系の兄弟たち」では、太陽の“子どもたち”である惑星が順番に紹介されています。

第4章「銀河系、中心に巨大なブラックホール」では、太陽系の所属する銀河系に焦点があてられています。銀河系の中心には巨大なブラックホールが存在することがわかってきています。

第5章「銀河の形を楽しむ」では、銀河系から飛び出して、宇宙のさまざまな銀河の成り立ちや種類が紹介されています。銀河のつくる形はじつに多様性に富んでいます。

第6章「ブラックホールのエネルギー源」では、いまなお謎の多い天体であるブラックホールに迫っていきます。ブラックホールがたんなる暗黒の星ではなく、その周辺ではいろいろな物理現象が繰りひろげられていることがわかります。

第7章「ダークマターとダークエネルギーの謎」では、宇宙の重量の大部分を占めるとされているダークマターや、さらに見えないエネルギーであるダークエネルギーへの言及があります。ダークマターの謎ときをめぐって、さまざまな天文学者や研究者たちが登場します。

第8章「宇宙のこれまでとこれから、宇宙への夢」では、これから宇宙はどのような歩みをたどっていくのか、説としていわれている宇宙論が紹介されます。宇宙に終わりはあるのか、また、地球以外にも生命は存在するのかといった深遠な謎にも触れられています。

なかでも詳細に書かれているのが、第6章などで触れられる「ブラックホール」について。ブラックホールというとすべてを飲みこむ漆黒の物体といった印象があります。中心部はそうなのですが、ブラックホールの周囲となると、とても“にぎやか”な物理現象が見られるようです。

たとえば、ブラックホールになりゆく星は「連星」といって、近くにもうひとつの星があることが多いといいます。そして、ブラックホールと化した星のほうに、もういっぽうの星のガスが吸いこまれていきます。このとき、ブラックホールに向かってガスが渦潮のように円を描いて中心部へと向かっていくことが推測されています。これは「降着円盤」とよばれるもの。

また、ブラックホールの周囲には、強力なエネルギーが生じていて、そこから「高速ジェット」とよばれるエネルギーの吹きだしが起きているとも考えられます。

これらのブラックホールのまわりで起きている物理現象について、とりわけていねいに説明がされています。

著者の藤田さんは、この本のなかで「宇宙の研究に関するニュースがこれからも新聞やテレビに取り上げられ、少しずつ人類の宇宙観が変わっていくことだろう。そうなっても、私たちの好奇心や楽しむ心が変わることはない。本書が、読者の皆さんの好奇心を引き付ける『ブラックホール』になることができれば、とても嬉しく思う」と述べています。

朝日おとなの学びなおし!『137億光年の宇宙論』はこちらでどうぞ。
| - | 23:50 | comments(0) | trackbacks(0)
「ガラク」のやわらかチキンレッグと野菜スープカレー――カレーまみれのアネクドート(39)


「札幌とカレー」といえば「スープカレー」を連想する人も多いでしょう。ルゥに小麦粉や油などでとろみをつけることなく、さらさらとしたスープ状のルゥと具材をおわんのなかによそいます。

1970年代に札幌で誕生したというのが定説。何度か全国的なブームも起きました。ブームが起きれば、スープカレーを出す店の数も増えるもの。小麦粉や油を抜いただけの、形式的なスープカレーなども出てくれば、「店で出すスープカレー全体」としての質は落ちてしまうことになります。

しかし、本場の札幌には「さすが本場」と客をうならせるようなスープカレー専門店もあります。

札幌の歓楽街すすきのの交差点から北に1ブロック、東に2ブロック行ったところにあるのが、札幌スープカリー専門店「ガラク」(GARAKU)。店は2階だてのたてものの2階。スキー場のロッジにあるような幅のせまい木の階段をのぼって店に入ります。

扉をあけた瞬間ただよってくるのは、香辛料を焦がしたような香ばしい空気。カントリー調で統一された店内の雰囲気とあいまって、はじめて訪れた客に期待を抱かせます。

上の写真にあるのは、「やわらかチキンレッグと野菜」。黒い陶器の皿には、熱のこもったカレースープ。それに、にんじん、じゃがいも、れんこん、キャベツ、パプリカ、ブロッコリーなどの野菜。さらに骨つきの鶏肉がまるごと入っています。

スープのなかにまぎれているのは黒い粒々。店内にただようスパイスをこがしたものなのか、たまねぎや香草を炒めたものなのか、味にコクが出ています。

しかし、ガラクのスープカレーの味の驚きは、その先に待っています。なかでも舌と鼻に大きな衝撃をあたえるのは、鶏肉とブロッコリー。具材としてただスープのなかに入っているのではありません。どちらも“味の二段構え”があります。

まず鶏肉。手間暇をかけて、香草で味付けをしているのでしょう。辛いカレースープとはまたべつの香ばしい風味が口のなかに広がっていきます。

さらにブロッコリー。カレーのなかのブロッコリーといえば、脇役であることがほとんど。このスープカレーでも見た目は脇役です。

しかし、客はこのブロッコリーを口に入れたとたん、ただの脇役ではないことに気づきます。なかには、ブロッコリーを食べた瞬間「あっ!」と思わず感嘆の声が口からもれでてしまう客もいるほど。

ブロッコリーは素揚げされているようです。もし、味に「こんがり」という表現が使えるならば、まさにこのブロッコリーのしあがりは「こんがり味」。カレースープの辛さがしばし脇にやられてしまうほどの強烈な風味です。

しかし、それだからといってカレーの味のなかでこのブロッコリーの味が浮いてしまうわけではありません。

ガラクの店員たちは、スープカレーという食べものに対して、研究に研究を重ねてきたのでしょう。店にただよう香ばしい空気で沸きおこる期待をけっして裏切りません。「さすが本場」と客を驚かせるスープカレーです。

ガラクのホームページはこちら。
| - | 23:06 | comments(0) | trackbacks(0)
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